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心赴くままに…私と向き合い、私を整える“Love yourself”の旅 松本 裕子
医療キャスター/ジャーナリスト 株式会社WELLyou 代表取締役

50代、更年期ど真ん中。心と身体が上手く噛み合わない日もあるけれど、仕事も家事も一生懸命。 いつも誰かのために走り続けている自分に、ほんの少しだけ「自分のための時間」をプレゼントしたくて、私は“Love yourself(ご自愛)”の旅に出た。目的地は、北海道・層雲峡にある「ホテル大雪 ONSEN & CANYON RESORT」。

「心の赴くままに、自分の好きなことだけをしよう!」 そう心に決めた旅の始まりは、東川町のカフェから。SNSで見つけて「いつか行きたい」と密かに楽しみにしていた「お菓子喫茶 みうら」を訪ねた。まるでパリの街角にあるパティスリーのように、ショーケースに美しく並ぶお菓子たち。私が選んだのは、ピスタチオとラズベリーのヴィクトリアケーキ、そして大好物のレモンケーキ。一口頬張ると…東川町の豊かな自然に育まれた食材で丁寧に作られたという、素朴でありながら上品で豊かな味わいに、自然と笑みが溢れる。窓の外には田園風景が広がり、まるで一枚のアートを眺めている様だった。

お菓子喫茶みうらにて

次に向かったのは、「HIGASHIKAWA STYLE CAFE Zen」。地元のお米と野菜がふんだんに盛り込まれた「東川のごはんプレート」を注文、メインは「大豆ミートと根菜のチリコンカン」をチョイスした。ホテルでの豪華な夕食を考えると、控えめにしておきたいところだが、雨音をBGMにお箸が止まらない。「こんなヘルシーランチが1,000円だなんて安い!」と、物価上昇の折、ついつい価格チェックしながら、農家さんへの感謝の気持ちが自然と湧いてくる。 東川町の豊かさに触れ、お腹も心も満たされた頃、いよいよ旅の目的地、層雲峡温泉へ。

HIGASHIKAWA STYLE CAFE Zenにて

さっきまでの雨は、いつしか湿った雪に変わっていった。知らぬ間に日常の出口から、別世界に迷い込んだかの様な感覚に包まれながら、層雲峡の大自然にたたずむ「ホテル大雪ONSEN & CANYONRESORT」に到着。去年、開業70周年を迎えたという老舗の宿は、リニューアルされたモダンな空間とどこか懐かしい雰囲気が心地よく交差していて、不思議と初めて来た気がしない。何かに追われる毎日とは違う…非日常の時間がゆっくりと流れていた。

ホテル大雪 ONSEN & CANYON RESORTに到着

私が泊まったのは、露天風展望風呂付きの客室。部屋に入るとまず、お抹茶と甘味でもてなされ、一息ついたら、露天風展望風呂へ。雄大な峡谷に名残雪がちらつく幻想的な景色を眺めながら、湯船に身を沈めると、パンパンに張り詰めていた肩の力がふっと抜けた。日頃、忙しいと呼吸が浅くなっていくのを感じる。少しだけ窓を開け、カムイミンタラ(神々の遊ぶ庭)から吹く風を胸いっぱいに吸い込んで、大きく深呼吸…心と身体の奥のこわばりを解き放ってくれる様だった。

今回は“Love yourself(ご自愛)”の旅。美顔器やフェイスパック、ボディクリームなど、美容グッズをたっぷり持参した。部屋にはホテルオリジナルのヘアケアアメニティ、人気のドライヤーなどが揃い、嬉しい味方。いつもはパパっと済ませてしまう肌やボディのセルフケアを丁寧に好きなだけ時間をかけて行う…なんて贅沢な時間!

露天風展望風呂付きの客室を満喫

夕食は、厳選された道産食材を使った季節のコース料理。前菜からデザートまで、どれも繊細で美しく、料理人が一手間かけたひと皿ひと皿に感動。道産ワインとのマリアージュもまた格別で、食材の旨みを一層引き立ててくれた。ゆったりと寛げる和の空間で、自然と会話も穏やかになる。

食後は再び温泉、今度は最上階にある展望大浴場へ。何も考えず、頭を空っぽにして湯に身を委ね、ただ温まる時間。天井の湯気をぼんやり眺めると、日々の喧騒が少しずつ遠のいていった。こうして「何もしない、何も考えない時間」を過ごすことの大切さを、50代になってからはつい忘れがちだったかもしれない。

夜は静かに更けていき、湯上がりの身体に深く、優しい眠りが訪れる。それは、ここ数年、睡眠時間を削る不規則な生活が当たり前になっていた私にとって、何よりの旅のご褒美だった。

厳選された道産食材を使った季節のコース料理

翌朝、雪をまとった峡谷から部屋の窓に射し込む淡い光で目覚めた。
ホテル大雪を後にし、黒岳ロープウェイ駅の「BLACK MOUNTAIN COFFEE」でカフェラテを一杯。大きな窓から望む山々の景色と、香り高い珈琲が、旅の続きをやさしく後押ししてくれる。そして、ふと立ち寄った層雲峡神社。雪がちらつく凛とした空気の中、自然と背筋が伸びる。山の神々に見守られながら、静かに手を合わせた。
さらに上川町の市街地では、古い薬局をリノベーションした複合施設「ANSHINDO」へ。ふわもちのベーグルとハーブティーでほっと一息。今度は、町の人たち手作りの地図を片手に、ゆっくり歩いてみたいと思った。

旅の最後に訪れたのは、新十津川町「かぜのび」。103年で閉校した旧吉野小学校が、彫刻家・五十嵐威暢さんのアトリエ兼ギャラリーとして生まれ変わった場所だ。
今年2月に亡くなられた五十嵐先生。もうアトリエで制作に打ち込む姿を目にすることはできないが、先生の作品たちは、今も北海道、日本、世界のあちこちで人々の暮らしと共に生きている。

作品と向き合うひとときは、まるで先生と静かに対話しているようだった。体育館の壁には、生前、先生がつぶやいた言葉が並ぶ。目を閉じるとこんな声が聞こえてきた。「考えなくていいんだよ。あなたが信じる、目の前の使命を一生懸命やりなさい。」心にすっと染み渡った瞬間、一匹のてんとう虫が、大きく真っ白なアートの中をふわりと飛び立っていった。

「五十嵐威暢美術館 かぜのび」(新十津川町)にて

自分と向き合い、自分を整える”Love yourself“の時間。何かが劇的に変わったというわけじゃないけれど、ほんの少し肩の力が抜け、ほんの少し心軽やかに、ほんの少し明日を生きるのが楽しみになり、また前に歩き出したくなる──そんな旅だった。

松本氏からのメッセージ:

医療キャスター/ジャーナリストとして、これまで多くの医師や患者さんと出会い、様々な疾患について取材を続けてきた私。去年からはメノポーズカウンセラーの資格を取得し、更年期世代の女性たちの心身の健康にも向き合っています。
更年期には、女性ホルモンの急激な変化によって、頭痛や肩こり、ホットフラッシュ、眠れない、倦怠感、気持ちの落ち込みなど…様々な不調に悩まされます。しかし、日本の更年期女性は他国と比べて睡眠時間が短く、更年期症状があっても病院を受診する方の割合やセルフケアの時間が極端に少ないという現実もあります。
更年期とは“The change of life”。老いることではなく、これからの人生をより軽やかに健康に自分らしく生きるための“人生の転換点”。 心身の不調に戸惑いながら、それをきっかけに自分自身と向き合うことができる大切な時期でもあります。私自身も50代を迎え、まさにその渦中。だからこそ今回の旅で、「自分を労る」「ご自愛する」時間が、どれほど心と身体に必要だったかを実感しました。
日々、頑張っている皆さんへー 子育や仕事が忙しくても…心と身体が辛い時は、決して自分を後回しにしないでください。特に、更年期の女性たちは、家庭でも職場でも「誰かのこと」が先行しがち。でも、もっと肩の力を抜いて、「自分ファースト」で生きてもいいんじゃないかなあと思うのです。私はこれからも医療と皆さんを繋ぐ“架け橋”として…そんなメッセージと健康に関する正しい情報を伝え続けて行きます。もちろん、Love yourselfで!

松本 裕子 医療キャスター/ジャーナリスト
株式会社WELLyou 代表取締役 函館市生まれ。
世界を飛び回る外資系エアラインのCAなどを経験した後、福井テレビ、北海道文化放送のニュースキャスターを15年に渡って務める。
2010 年、キャスター時代に母のがんがきっかけで医療現場の取材を始め、自ら制作した医療ドキュメント特集は200本以上。
がんだけでなく、生活習慣病から難病まで様々な疾患の啓発活動をライフワークとし、医師と患者を繋ぐ“架け橋”として正しい情報を届けるために、“医療キャスター”という新たなジャンルを確立。
現在は、UHBで第4日曜朝6時15分放送「松本裕子の病を知る」やHBC「今日ドキッ!」コメンテーターとしてテレビ出演中。
女性の活躍推進について考える国際女性デーイベント「HAPPY WOMAN」や更年期に関するメノポーズカウンセラーなど、女性の健康をサポートする活動も行なっている。